音声

IK Multimedia ARC Studio導入結果

大学現役時代も含めてここ10年くらい、年に1回サウンドトラックの収録と編集をやってます。
オーディオインターフェースとかマイクとかの機材は揃ってきて、今年はスピーカー補正に興味が出たので、IK MULTIMEDIA の ARC Studio を導入しました。 数日使ってみたので、感想をまとめておきます。

ARC Studio

これは何?
部屋の鳴りを測定し、スピーカーの出音を調整してくれるツール

これを使うとどうなる?
部屋の特性上本来よりも大きく/小さく聞こえる帯域を補正して、フラットな出音に近づけられる。
あと、ディレイか何か内部処理はわからないけど、位相を揃えてくれるから、音の定位がわかりやすくなる。

導入経緯

毎年、少しづつ収録機材を買い足してきて、今は概ね次の構成でサントラ収録をしています。

  • マイク:AT4040
  • オーディオインターフェース:MOTU M6
  • パソコン:Mac Book Pro M1Max
  • DAW:Logic Pro
  • スピーカー:JBL 305P Mk2(ペア)
  • オーディオプラグイン類:買い溜めたWavesプラグインたち

後はヘッドホンやヘッドホンアンプ、スプリッター、マイクスタンドとかも出揃ってきて、次に録り音を改善するならマイクをAT4050にしたいですが……
そしたらマイクプリもちゃんとしたのを入れたいし、すると安定化電源だって使いたいし、本音を言えばオーディオインターフェースもM6で必要最低限のことはできるんだけど奏者へのトークバックとか返しのミックスをもっと柔軟にしたいし……と、次のステップに行くにはまとめて入れ替えになりそうです。

流石に本業じゃないのにAT4050、まともなマイクプリ、安定化電源……とかまで手を出す度胸は無かったので、今年は的確な編集を目指して出音側の改善をすることにしました。

最近ちょうど補聴器を買ったので(生まれつき右耳が弱いんです)、スピーカーでもステレオ感がわかるようになってきたし、記念にスピーカー補正をすることにしました。 特に賃貸の6帖部屋で、ルームアコースティックなんて最悪だろうしね。

セッティング

インストール方法や測定方法は他の記事に譲るとして、ARC Studioはいろいろなリスニング環境に対応しているので一通り紹介します。

Project Studio(試した)

一般人のDAW環境は多分これでしょう。私もこの設定で音響測定しました。 後述しますが、Studio – Back Areaよりも定位がよく見えます。

Studio -Monitor Spot(試してない)

Project Studioとの違いがぶっちゃけわかりませんが、想像する限り、スピーカーからリスニングポイントまでの距離が長い場合はこっちを選ぶ……んですかね?

あるいは、スタジオのようにルームアコースティックを改善している場合はこっちのほうが良いのだろうか……。

Studio – Wide Area(試してない)

上記のStudioよりもスイートスポットを広くしたいとき用だと思います。

Studio – Back Area(試した)

今年は、サントラ編集の最終確認のため、私がPCの前に座り、作曲者などが後ろに座ってあーだこーだ指摘し合う会をやったため、この設定も試しました。

部屋が汚くて恐縮ですが、物に溢れた6帖間にキャンプ椅子を3つ並べて、ちょうど上図と同じような配置です。

帯域の補正という意味ではProject Studioとの違いもわかりませんでしたが、どうしてもスイートスポットをかなり広く取るため、定位のわかりやすさはProject Studioに敵わない感じですね。
それでも、低域が大事な曲なんかでは、ヘッドホンを使わずスピーカーの音で判断できる環境が作れたので大変意味がありました。

Movie Studio / Home Theater(試してない)

いつか夢のマイホームを建てたら試すことになるでしょう。

補正結果

先に結論というか結果です。緑色や黄緑色が補正前、オレンジや黄色が補正後。

部屋の環境としては、壁のすぐ近くに5インチスピーカーを置いて、戸境壁だけは防音材(ロックウールボードに遮音用のサンダムを貼った物体)を貼ってます。さっきの写真でいうと本棚がある側ですね。
あと床は防音カーペットですが、基本的にドタドタと走り回る系の音に対応する用なので、スピーカーの音にどう影響するかはわかりません。多分反射は減る。

緑色の線を見てもらうと分かるとおり、50-60Hzと150Hzあたりに大きな山があって、10dBくらい強調されてるみたいですね。
一方、補正後のオレンジ色を見ると、低域の暴れていた部分はいい感じに押さえてくれていそう。
低域に比べると200Hz以上の補正が甘い(完全な真っ直ぐじゃない)ようにも見えますが、そもそもこのグラフ自体がリニアじゃないのでまあこんなもんなんでしょう。
あと15kHzあたりにも3dBくらいの山があるみたいですね。

ちなみに、ターゲットカーブはFletではなくDefaultを使ってます。Flatだと低音が削られすぎて耳に慣れていなくて、どうしても物足りなくなっちゃうため。

でもこれ本当にちゃんと補正してるのかなぁって思ったので、試しに補正後のスピーカーで再度測定してみました(いじわる)。

ちゃんとさっきの補正後カーブに近い感じで補正してくれてるみたいです。そりゃそうか。

余談

机の横にあるクローゼットのドア、普段は開けっ放しなのに、最初に測定したとき締めたままで、再度21点測定し直すという苦行が発生しました。

供養のために、ドアが開いてるとき、閉じてるときの測定結果を置いておきます。

閉じてるとき(いつもと違う)

開いてるとき

閉まってるときのほうが50-60Hzのブーミー具合が左右均等ですね。 ドアが開いてると、左チャンネル(=ドアに近い方)のブーミー加減が、右に比べて抑えられてるみたいです。 結局補正で抑え込みますが、ちょっとでも違いがあったので、測定し直した甲斐はあったということで。

感想

最初に導入したときは、Studio – Back Areaの設定で補正してました。

このときは「ブーミーな低音を抑えて、信用できる音にしてくれているんだなぁ」くらいにしか思ってなかったんですが、作曲者たちが帰った後に普通のProject Studioで測定・補正し直したら、定位の改善がはっきりわかってびっくりしたのを覚えています。
今までよりも「この楽器がこの位置で鳴ってる」という音像がよく見えて、個人的には周波数特性の改善よりも定位の改善の方が体感して面白かったです。

今後はまた1年後のサントラ編集に向けて、1年間ずっと補正後のスピーカーで色んな曲を聞いて、耳を鍛えようと思います。

ちなみに、Phase設定はNaturalよりもLinearのほうがラグが大きくなるのでLinearのほうが良いのかなぁって思ってましたが、取説を読むと

NATURAL(ナチュラル)モードは、L/Rチャンネルの位相の一貫性を改善し、特に低周波数において、部屋がサウンドに与える影響によって損なわれるセンターイメージを向上します。このモードはデフォルトで、ほとんどの用途に適しています。
LINEAR(リニア)モードは、スピーカー・システムのチャンネル間位相特性がそのまま維持される、特別な補正モードです。より優れた透明感を得るために、このモードが望ましいこともあります。ただし、このモードでは50ms程度のレイテンシーが発生します。

とのことです。

たぶん、Naturalモードのほうがちゃんと位相を補正していて、Linearモードだと「スピーカー自体の位相特性を維持するために」ラグが大きいのかなって思いました。
ウチのような安いスピーカーにひどい音場の部屋なのであれば、Natural一択で良い気がします。しらんけど。

おまけ

Arc Studioを買う前に、どうせならiLoud MTM MKII Pairを買うという案もありました。 というのも、サウンドハウスだと15万円するのに、Amazonでみたら10万円だったので結構心惹かれて……。 こっちを買えば、スピーカー側に音響補正が組み込まれてます。完全に最適化されていて、もっと良い結果が出るんじゃないか!?

ただ、いろいろなレビューを見ると、JBL 305P Mk2はコスパ最強とか、この特性をこの価格で出せるのはおかしいとか、好意的なレビューが多かったのと、iLoud MTM MKIIだと(1chあたり2基搭載とはいえ)ウーファーが3.5インチに小さくなってしまうこと、そして何より、Arc Studioの2倍お金がかかることから、大人しく既存のスピーカーを補正することにしました。

今まで見てもらったグラフに出ているとおり、サブウーファー無しで45Hzくらいから聞ける環境なのでハッピーです。

次に買うのはサブウーファー……の前に、サブウーファーを鳴らせる家を建てる必要がありますね。